燈台草の根

大学生による日記

3/31 『東方綺譚』とディンブラ紅茶

f:id:kobato0812:20180330172918j:plain ユルスナールの『東方綺譚』はかねてから読みたいと思っていた本で、でも何となくそのままにしていました。図書館で借りたり、本屋で立ち読みするのではなくて、ぱっと新品で購入したい「お楽しみ」のための本だったから。卒業の記念品として図書カードを頂いたので、この機会を逃してなるものかと一冊手に取るとすぐレジへ向かいます。
 私にとって、源氏物語は、「源氏はね」と恋人を自慢するような気分で話してしまう、特別な作品です。この200ページに満たない短編集でも、一番期待していたのは「源氏の君の最後の恋」でした。光源氏にとってくつろげる、穏やかな女性でしかなかった花散里が感じる、老いた源氏の愛が自分にのみ注がれる心地よさ、広く深い寂しさ、絶望がしっとりと美しく書かれていました。
 しかし、一番印象に残った短編は「死者の乳」でした。他の話と比べても伝記らしさが強く、おとぎ話の゛末っ子は他の兄弟よりも優秀だ〝という決まりは変わりません。でもなぜだか、少女のようなあどけなさを残す若い女性が赤ん坊のために乳を流した、その白い跡を指でたどる感覚が不思議と心に強く残ります。
 母親は強い、もちろん子どもを守るという意味もありますが、最後に出てきた母親も、自らが生き延びるために子どもをだしにする強さがある。
 どの話も掌編といえるほどかなり短い話ですが、自分が置いてきぼりになるくらい強烈な印象があります。こんな本を薦められる人が欲しいと思いました。